レメディのふるさとをたずねて
英国訪問記
イギリスのフラワーエッセンスとホメオパシー

Creabeaux(クレアボー) 2005年Autumn(44号)(フレグランスジャーナル社)掲載記事を加筆訂正したものです。

2005年6月、フラワーエッセンスとホメオパシーの本場における現状を視察するために、3年続けてイギリスを訪れました。

イギリスを発祥の地とするフラワーエッセンスは今を去ること約77年前に医師であり、ホメオパスであったエドワード・バッチ博士によって創始され、現在では世界中に普及しており、イギリス国内ではホメオパシーと共に自然食品店、ハーブショップ、ドラッグストアなどいたる所で見つけることができます。

イギリスにおけるホメオパシーは170年以上の歴史があり、ロンドンとグラスゴーにある王立ホメオパシー病院が象徴するように長い間王室によって保護されてきました。(かのバッチ博士も1920年代にロンドンの王立ホメオパシー病院でバッチノソードと呼ばれる大腸菌のレメディによる研究と臨床を行っていた時期があります。)秀れたホメオパスを輩出する教育システムと多くの利用者の支持がイギリスのホメオパシーを支える基盤となっています。

フラワーヒーリングとホメオパシーを生業とする身としては優れたレメディ・プロデューサーたちにインタビューすることで本場イギリスの「レメディ文化」を肌で感じ、また、レメディの製造法を研究することによってヒーリングへの本質的理解を深めることを願っての10日間の旅でした。

◎エインズワース社「女王陛下はホメオパシーがお好き?」

王室御用達のホメオパシー製薬会社エインズワース社は日本での知名度はまだそれ程高くはないかもしれません。しかし、王室御用達ということは女王陛下が召し上がるレメディはエインズワース(Ainsworths)社製のものであるということを意味します。(ちなみにエリザベス女王の主治医はホメオパスです。)日本では、二ールズヤードレメディーズジャパンや日本ホメオパシー振興会、FairDew(ネットショップ)などがエインズワース社の商品を取り扱っています。今回はロンドンのショップ見学はもとより超多忙な社主夫妻にご自宅でのインタビューを行うという幸運に恵まれました。

トニー・ピンカス社主はロンドン郊外にある伝統的なイングリッシュガーデンつきの素敵な邸宅にご家族と共に住んでいます。美しい庭園の周囲にはさまざまな木や草が生い繁り、ホリー、ビーチ、ホワイトチェスナットなどのバッチプラントたちも数多く自生しています。広い敷地の中には満開に近いチコリーやヴァインの他に何種類ものバラが美しい花を咲かせ、小さな池の中では人目を避けるようにウォーターバイオレットが孤独を楽しんでいました。フラワーレメディを作るためには場のエネルギーに対するデリケートな配慮が必要なため、外部から人を自宅に案内することは滅多にないとのことで、今回は特別なご厚意によってご招待いただいたのです。

社主の奥様であるキャロルさんは約4年前からバッチフラワーレメディを作製するようになり、フラワーレメディのプロデューサーとしてバッチ博士の残した手法に厳格に従って従来の38レメディやリカバリーレメディ(レスキューレメディの商品名)、リカバリークリーム(レスキュークリームの商品名)などを作る一方で、リカバリープラス(レスキューレメディにホワイトチェストナット、ミムラス、アスペンを加えた救急レメディ)、リカバリープラスクリーム、リカバリープラススプレー(ノンアルコールの救急用スプレー)、クレンジングエッセンス(エッセンシャルオイルとバッチフラワーレメディを組み合わせた4種類のミストスプレー)などの新商品を次々と世に送り出しています。キャロルさんはメディカルドクター(医師)であり、ホメオパシーにも造詣が深く、花のディーバ(精霊)とコンタクトするヒーラーでもあるという、バッチ博士の女性版のような方です。社主のトニーさんはとてもエネルギッシュな男性ですが、インタビュー当日はキャロルさんの太陽のようなパワーの方がやや勝っていました。レメディ作りはご夫妻が共同作業で行っているご様子で、新しく見つけたというへザーが一面に咲き乱れる丘や1000年以上の歴史がある古城の霊泉でロックウォーターのレメディを作った時のエピソードをデジタル映像を交えて紹介していただきました。夏至に満月が重なった今年の6月21日に作ったばかりという超レアなロックウォーターの原水(ブランデーを加える前のもの)を飲ませていただいた時には、脳幹に共振するようなすばらしいエナジーを感じました。お二人はフラワーレメディを作る際の重要なポイントやノンアルコールのレメディ作りに苦心したこと、リーズナブルなドースボトルの作り方などを熱心にお話し下さり、約束の時間はあっという間に過ぎてしまいました。

エインズワース社の創立者で前社主のジョン・エインズワース氏は以前、ネルソン社(現ネルソンバッチ社)で社長を務めたこともある人物で、彼がネルソン社に在職中、バッチ博士の後継者であったノラ・ウィークス女史から彼のところに、当時まだ無名だったバッチフラワーレメディを出来るだけ廉価で普及するために協力して欲しいとの要請があったのだそうです。その後、エインズワース氏は独立してエインズワース社を興し、トニーさんが継承して現在に至るわけですが、自社ブランドのバッチフラワーレメディを世に送り出すことについては「歴史的な縁を感じる」(トニーさん)とのことでした。ロンドンのショップの壁にはバッチフラワーレメディ関連商品の大きなポスターが掲げられエインズワース社のバッチフラワーレメディにかける意気込みが伝わってきました。

◎ヒーリングハーブス社「ただ1つのフォーミュラ」

昨秋に引き続いて行われたHealingherbs社の創業者ジュリアン・バーナード氏とのインタビューはエッセンス作りで多忙を極める氏のスケジュールの寸暇を縫って行われました。氏が社長を務めるヒーリングハーブス社はロンドン(パディントン)から電車で約3時間も走った田舎にあり、しかも交通費が1人往復96ポンド(約20000円弱)もかかるうえ、最寄駅(Hereford)から乗ったタクシーの運転手が朝にもかかわらず酒の臭いをさせている、といういくつかの困難を乗り越えて無事約束の午前10時にインタビューはスタートしました。前回訪問した時に同行した私の娘(当時4才)がパンツ一丁で社内を走り回っている姿を見て「You are a Monkey, beautiful are!(なんてかわいいお猿さん!)」とサインしたワイルドローズのフォトカードをプレゼントしてくれたバーナード氏は笑顔の素敵なやさしい紳士ですが、バッチフラワーレメディを長年世界中に供給し続けてきた道程はただ「やさしい」だけで通れる道ではなかったはずです。

今回は特にフラワーエッセンスの作り方とエッセンスの選び方を中心にお話をうかがいました。氏によるとエッセンス作りには、基本的に秘密はなく「朝起きて、晴れていて、気分が良かったらシャワーを浴びて、スペシャルな白いシャツを着て出かけてゆき“ここがいいな”と思ったら、そこでレメディを作り、でき上がったら忘れる」とのこと。良いエッセンスを作るためには、「自分の意識がはっきりと開いていること」「“ここにいる”こと」「“自分”がどんどん小さくなること」が大切だと話されました。

エッセンスの選択については「必要なフォーミュラは1つだけある。それは患者さんが知っている」「患者さんを注視し、そこから答えを引き出すこと」「会話の中で患者さんが自らの問題に気付くよう導くこと」「あなたの人生はどうしてそうなったのか?と問うこと」「そうすれば患者さんが答えを教えてくれます」とのアドバイスをいただきました。氏はさらに言葉を続けて「自分の痛みを知らずして人の痛みを知ることはできない。Dr.バッチの偉大さはシチュエーションを逆転し患者の苦痛を自分の中に取り込んで解決の道を探す方法を示したこと」「フォーミュラの公式にしばられることなく1つ1つを試して、その結果と、その結果に対して自分がどう感じているかを自らに問いなさい」と話され、「患者と共にあること」と「治療の結果について自ら問うこと」の重要性を教えてくださいました。

フラワーエッセンスの世界はホメオパシーに比べると入口は「広き門」ですが適切なガイドもなく心の宇宙の奥にわけ入ることは大きな困難を伴います。私はフラワーエッセンスを用いる臨床を始めて約8年たちますが、この分野で日本には師と呼べる先達は無く、プラクティショナーとしての壁にぶつかるたびに試行錯誤と暗中模索を繰り返しながら手さぐりで道を切り拓いてきました。昨秋と今夏の2回のインタビューを通じてバーナード氏の経験と洞察の一端に触れたことで、現在自分が立っている場所を確認し、歩むべき方向を自らに問い直す良い機会を得られたことに感謝しています。

◎ヘリオス社「ポテンタイゼーション」

日本ではブルーの基本キットやイエローのチャイルドバースキットでおなじみのホメオパシーファーマシー、ヘリオス(Helios)社を昨年に引き続き訪問しました。パディントンから南方に電車で1時間20分くらいのところにあるTunbrige wellsという由緒ある町に本社があります。前回は英国のホメオパシースクールに留学中の友人たちとレメディ作りの実習をかねて見学し、社員の方の指導の元、日本から持参した2種類のサンプルからそれぞれ30cのレメディを作りあげました。

レメディ作りは経験的に定められた原則にしたがってサンプルを採取及び処理した上でポテンタイゼーション(原物質の活性化)が行われます。

採取された物質は高濃度のアルコールによってエキスを抽出されたり、乳糖の粉と共にすりつぶされたりした上でマザーチンキ(母液)となり、このマザーチンキを90%のアルコールで希釈し、バイブルの上で繰り返し振盪を加えることによって原物質に秘められたエネルギーが活性化されホメオパシーのレメディが誕生するのです。この日はレメディ作りに先立って工場の中を案内していただきました。会社の業務拡張と共に買い足していったという社屋は思ったよりも広く、奥の方には自動的に希釈振盪を繰り返すマシンが設置され1Mや10Mなどの高ポテンシーのレメディが作られていました。 レメディ作りの実演と説明を受けた後で、私が日本から持参した「ある物」をホメオパシックなレメディに変容させるプロセスが始まりました。30cのレメディを作るためにはマザーチンキを100倍法で30回希釈振盪をくりかえす訳ですが、8ヶ月前にここで学んだばかりの手順だったのですぐに思い出して同行した2人の友人にも手伝ってもらいながら無事完成へとこぎつけました。

ヘリオス社では現在1つのポテンシーについてサーカッション(振盪)する回数は20回で、ハーネマンが行っていた100回に比べるとずい分少ない感じがしますが、レメディの品質にはさほど差は出ないとのことでした。社員の方々は皆親切で感じの良い会社で、コベントガーデンにあるロンドンのショップも明るい雰囲気の良いお店でした。

◎エリザベス・ベルハウス「内的キリストとの対話」

ヴィタフォンUという不思議なエッセンスがあることをひょんなことから知り、プロデューサーであるエリザベス・ベルハウス女史(89才)をロンドンから西に電車で約2時間30分のところにあるTauntonに訪ねました。あいにく休暇中ということでご本人には会えませんでしたが、娘さん(この方もエリザベスさんと言います)にインタビューすることができました。娘さんによると、女史は2才の時にヒーラーである自覚に目覚め早くから自然療法にたずさわり、バッチ博士が逝去して間もない頃のマウントバーノン(現在のバッチセンター)で数年間スタッフとしてフラワーレメディ作りをしたこともあるのだそうです。その時にはバッチ博士からの霊的な導きによってレメディを作っていたとのことでした。当時のバッチセンターはバッチ博士が亡くなって間もない頃で、センターのメンバーたち(ノラ・ウィークス女史やビクター・ブレン氏たち)は毎週ミィーディアム(霊媒)の所へ行って、バッチ博士からのメッセージやアドバイスをもらっていたという興味深いエピソードもあるそうです。

その後彼女は大きな病や瀕死のケガを通して神から魂を成長させる機会を得、信頼していたホメオパシーやバッチフラワーでも治癒しないという厳しい現実から独自の道を歩むことを余儀なくされたのです。彼女は苦心の末、「内なるキリスト」の導きによって癒しの花と出会い、花を摘まない太陽法によって「ビタフロラム」(花の生命力)というエッセンスを作り、内的意識を調和に導くことによって肉体的にもやすらぎをもたらす道を開くことに成功しました。長い年月にわたって研究が続けられた結果新たなエッセンスも作られるようになり、現在ではVitaFonU(ヴィタフォンU)が最もおすすめのエッセンスだそうです。エッセンスは純水で保存料を含まず、服用しても無味無臭です。チャクラ塗布や湿布にも用いられ、外用のためのローション、クリーム、マッサージオイル、タルカムパウダーなどの関連商品もあります。内的キリストとの対話によって生まれたというVitaFonUはただひとつのフォーミュラのみであらゆる人々の癒しを追及するエッセンスです。

◎ロンドンの光と影

私が帰国してまもなく2012年の夏季オリンピック開催地にロンドンが選ばれ、すっかりイギリスびいきになっている私はとてもうれしく感じました。ところが、その翌日(そしてその1週間後にも)あのいまわしい自爆テロがロンドン市内で起こり、祝賀ムードはいっぺんに吹き飛ばされてしまいました。

まぶしい太陽がふりそそぐ昼下がりのコベントガーデンでさまざまな人種の老若男女が渾然一体となってとても幸せそうに見えたのは幻だったのでしょうか。「遠くから眺めればたいていのものは美しく見える」のでしょうか。英国在住の友人によれば、長い間IRAの爆弾テロの恐怖にさらされてきたロンドン市民にとって、ロンドンに暮らすということは常に何時こういう事件が起きても不思議ではないという現実と共にあることを意味するのだそうです。

科学という名の光が強くなればなるほど人間の心の闇は深くなってゆくものなのかもしれません。自然から乖離することで文明を発達させてきた人類にとってフラワーエッセンスやホメオパシーがもたらす生命の美徳への気づきと回帰は大いなる福音であると考えられます。

「斜陽」と呼ばれて久しい老大国イギリスが老苦にあえぎながらも国家としての秩序を保ち、「老紳士」であり続けるためにフラワーエッセンスやホメオパシーが大きく貢献していることはまちがいありません。来年はバッチ博士の生誕120年祭が盛大に行われる9月下旬にイギリスを訪れたいと考えています。その時には世界中から集まった多くの人々による幻ではない本物の調和と友愛の精神に触れることができると確信しています。